アメサラサ〜雨と、不思議な君に、恋をする〜   
CUFFS
9240円(税込み) 2007年4月27日発売
音声 ディスクレス シーン回数 CG枚数
有り 9回 75枚(差分含まず)
シナリオ
市川環
風間ぼなんざ

原画
カントク
兼清みわ



 感情の高ぶりによって雨を降らせてしまうという特異体質をもった主人公大久保晴市。
 その特異体質のせいで運動系の部活にことごとく入部を断られた彼は仕方なく入った文芸部の部員として平坦な日々を送っていきます。突然目の前に現れた黒髪の少女に出会うまでは。

グラフィック
 原画は二名が担当しているようですがその事による違和感はあまり感じません。
 所々デッサンが狂っている絵が見受けられますが、全体としては良質といっていいでしょう。ただ、ゲーム中に使われていない絵の方が良い物が多かったような気がしますが……。
 それよりも気になったのは立ち絵の少なさ。そのせいでテキストと立ち絵の表情が合っていない箇所が多々ありました。ここはもう少し改善してもらいたかったです。


シナリオ
 シナリオはメインヒロインとそれ以外の三人で出来の差が激しいです。
 サブの三人のシナリオは良い悪いというよりも単純に短くてストーリーに起伏がほとんど無いのが特徴。特に光羽、花香シナリオは肩透かしを食らわせられた印象が強いです。物語の本質ともほとんど関わる事がなく、単純に主人公とくっ付いただけで物語が終わってしまいます。
 これでも萌えやエロ、雰囲気など他の要素で補えていれば良かったのですがそれもいまいち。やっつけ仕事という印象が拭えません。
 唯一メインヒロインの霖シナリオだけはしっかりと作られています。(他が悪過ぎるからそう思えるなんて言ってはいけない)全てのヒロインがこのシナリオと同じクオリティを保っていれば良かったのでしょうが……。



テキスト
 テキストはいまいち。恐らくシナリオライターは言葉の言い回しやテキストのテンポといった事に鈍感な人なのではと思います。同じ表現を繰り返し使ったり、前後の文章で齟齬が生まれていたりと読んでいて突っ掛かってしまう事が多々ありました。

それよりも、もっぱらの関心ごとはこのふったりやんだりを続けている空模様の事だ。
朝は雨が降っていなかったのに、今はしつこいくらいに降り続いている。


 読んでいて違和感を感じないでしょうか?朝は雨が降っていなかったのには無いだろうと思う次第。
 ただ、テキストが悪いとは言ってもそれはあくまでシナリオ重視の作品の中での話だという事を断っておきます。萌えゲーのライターの中にはもっと段違いに酷いテキストを書く人が多々いるので。

 

操作性
 かなり劣悪です。まずメッセージスピードが変えられない。これが一番不便でした。ノーウェイトでプレイするには演出をOFFにすれば良いのですが、そうすると他の演出までカットになってしまうデメリットが生じます。普段からウェイトありでテキストを読んでいる人には問題ないのでしょうが。
 スキップもスピードは問題ないのですが既読判定がいまいちなので使いにくかったです。同じテキストなのに違うルートだと既読と判断されなかったり……。

 

サウンド
 BGMはヴォーカル曲の除いて十五曲。数が少ない印象が強かったです。そのせいで使いまわしの箇所が多く、場面の雰囲気にそぐわない曲が流れているのが気になりました。
 二曲あるヴォーカル曲はどちらもいい出来。特にOP曲は雰囲気が出ていて素晴らしいです。素晴らしすぎて本編を食ってしまっている気もしますが……。
 


H度
 数が少ない上に短いです。シーン回数は九回と書きましたがほとんど同じようなシーンの物も含んでの回数ですので実際にはもっと少ない印象。
 あまり濃いシーンにしても物語の雰囲気にあわないのでしょうがもっとHシーン以外で工夫が欲しかったところ。




総評
 とにかくOHPやパッケージ、OPムービーから受ける印象と作品の雰囲気が違っていたのが致命的でした。

 淡い日差しの中、スカートをまくり上げコンクリートでは無く草と土に覆われた小川に足を浸す黒髪の少女。傍らには脱ぎ捨てられた靴と放り投げられた傘。背後には木で出来た小さな橋。何処までも続く緑。そして青空

 この絵から受ける雰囲気を作品の中にそのまま取り込めていたら。例えシナリオが何の事件も特別な事も起こらない平坦なものだったとしても、私はその雰囲気だけで満足出来ていたのでは、と思います。


以下、ネタバレを含む雑感
 衝動的に購入を決めて、パッケージを見て、安っぽいけどいい雰囲気をかもし出しているOPムービーを見て。ここまでは非常に期待できた作品でした。
 霖シナリオを最後にプレイした私ですが、その前の光羽、花香シナリオでギブアップしなかった事は特筆に価すると思います。
 人ならざるものながら主人公に恋をし傍にいる事を願った霖。その存在を他のシナリオでももっと全面に出して良かったのではないでしょうか。
 自分のせいで主人公が新しい恋をする事が出来なくなったと思い悩む霖は他のシナリオでは主人公の新たな恋の応援役に回ります。しかしその応援は特別な力を使ったもの、と言う訳ではなく、本当にただのクラスメイトがするような誰もがするような拙いもの。
 それが悪いと言う訳ではありません。なんでもかんでも不思議な奇跡で解決するよりよっぽどマシです。しかし、そういう面白みの無い物語を書くなら、もっとしっかりと伝えなければならないものがあるのではないでしょうか?
 主人公を想い、幼い頃からずっと彼の傍に居続けた霖。誰よりも長い間彼の事を見つめていたのに自分が人では無いばかりに他の誰かに彼の事を託さなければならない。そこにある葛藤、嫉妬、ジレンマ。そういった心の奥底を描けていたのなら、起伏の無い平坦な物語はなんのマイナスにもならなかったでしょう。
 光羽、花香両シナリオでは霖の正体についての言及は殆ど無く、彼女は唐突に目の前から消えてしまいます。唐突に何故彼女が消えた事。そして、それによって主人公の雨男体質が直った事。その事を作中の人物は知らないまでもプレイヤーには判るようにしていたら、消えた霖の気持ちを描き切れていたのなら。この作品は十分傑作と言える物になっていたのではと思います。