そして明日の世界より――
etude 9240円(税込み) 2007年11月21日発売
音声 ディスクレス シーン回数 CG枚数
あり 11回 82枚(差分含まず)
シナリオ
健速




原画
植田亮

 誰もがこの平和で楽しい日々が、どこまでも、いつまでも、
かわらず続くものだと信じていた。

そう、あの日までは――。

『この小惑星は秒速三十二キロメートルで大気圏に接触、
 僅かに大気表面を滑って軌道がズレた後に……地表に激突します』


突然の宣告――。残された時間は三ヶ月。


訪れるのは世界規模の大災害。
あまりにも唐突に訪れた世界の終焉に、混乱する人々。
そんな中、何とか自分を保ち続けようと必死になる五人――。

果たして彼らは、残された僅かな日々の中で、
何を想い、何を得るのだろうか?    (OHPより抜粋)


グラフィック
 可も無く不可も無くといったところでしょうか。作品の雰囲気にはあっていると思います。若干ヒロインの髪型がアバンギャルド過ぎる気がしますが……。
 ただ若干立ち絵のパターンが少なく、違和感を感じさせました。


テキスト
 テキストは非常にバランスが悪いです。
 シナリオライターは日常シーンを書くのを不得手としているのでしょう。オープニングなどの緊迫感の無いシーンでは目に見えて文章が稚拙です。特に序盤はその傾向が強く、退屈極まりない文章が延々と続く為下手をするとここで投げ出してしまう恐れがあります。笑いのセンスが壊滅的なのもつまらなさに拍車をかけます。
 逆にシリアスなシーンでは筆が乗っているのが読んでいて伝わってきます。悪く言えば自分に酔っているようなテキストですが読む者を引き込ませる魅力は十分あります。



シナリオ
 
シナリオは見も蓋もなく言ってしまえばいつもの健速シナリオ。
 これまで同氏が携わってきた作品とストーリー展開がほぼ同じで新鮮味に欠けます。シナリオライターの名前でこの作品を購入した人には容易に話の展開が見えてしまうことでしょう。
 むしろ、健速氏の作品をプレイしたことの無い人の方が純粋にこの作品を楽しめると思われます。




操作性
 あまり褒められたものではありません。
 基本的なものは押さえているものの、コンフィグが貧弱でプレイしていてやや不便さを感じます。特に、既読文章の色が強制的に変わってしまうのが個人的に気になりました。オープニングスキップが出来ないのも序盤が長いこの作品では欠点に映ります。またフルスクリーンモードで起動出来ない点もマイナス。


サウンド
 ヒロインにはそれぞれ固有のエンディング曲が用意されています。OP曲などと合わせヴォーカル曲が合計六曲とかなり力が入っている印象。ただ一曲一曲の印象はそう強くはありませんでした。特にED曲は悪い曲ではないのですがヒロインのイメージと曲調があまり合っていない印象が強いです。歌詞はヒロインに合わせて書かれているようですが……。
 


H度
 Hシーンは一人二回から三回と、この手の作品としては平均的な数。
 物語とシナリオライターの特性上シチュエーションは平凡なものばかりであまり実用的とは言えません。もっとも、あまり濃いと作品のイメージをぶち壊してしまいそうですが。




総評
 絵はあまり好みではなくシナリオライターの名前だけで購入した作品でしたがそれなりに楽しめたものの、期待していた出来だったかと問われるとクエスチョンマークが附きます。
 上にも書いたように、とにかくシナリオのワンパターンっぷりが気になりました。同氏の作品は処女作の「
こなたよりかなたまで」から始まって非常に自己啓発色の強いシナリオが多いのですがこの作品もその例に漏れません。それ自体が悪いとは思いませんがこうも同じパターンが続くとどうしてもマンネリ感が出てきてしまいます。健速氏には新しい境地を開拓してほしいものですが、もしかしたらこのパターンの作品を書き続けるのかもしれません。
 他、物語の重い展開から影に隠れてしまいがちですが、ヒロインそのものも非常に魅力的に描かれています。特に青葉と御波の二人はそのまま萌えゲーに突っ込んでもなんら遜色の無い出来でした。世界の崩壊を描くのも結構ですが、たまにはそういった方面の作品もライターには手がけてもらいたいと思ってしまいます。その場合日常シーンをきちんと書ける他のライターの協力が不可欠となるでしょうが……。


以下ちょいネタバレ(ブログよりの抜粋)
その一
一番の印象は「またいつもの健速主人公か……」といったところでしょうか。今更と言えば今更ですが、健速氏の描く主人公というのは立場、年齢、性格等に拘らずどの作品でも同じような人物像でして。その主人公の行動も半ばルーチンワークと化している印象があります。それを是と見るか非と見るかでこの作品の評価はかなり変わってくるものかと。
 ただ青葉ルートだけの印象だと今回の主人公「葦野昴」は今までと比べてもあまり気分のいいものではありませんでした。
 この手の作品において主人公が(特に恋愛に関して)度を越した鈍感である事は多々あります。ユーザーのニーズどうこうより、そういう主人公である方が話が進め易いというのがその理由でしょう。ただ、この作品、少なくとも青葉シナリオにおいてはその鈍感さが若干いき過ぎていたように思えます。
 昴の為に青葉が女の部分を押し殺し彼の親友役を演じていた事、作中では途中からかなり露骨にその事が提示されていますが昴は一向にその事に気附く様子がありません。遅くとも青葉のクローゼットの中身を見た時点でほとんどのユーザーには彼女の真意が見えていたことでしょう。しかし事ここに至っても昴だけは一向に青葉が何故そうしていたのか理解出来ないでいます。それは傍からみていて些か滑稽ですらありました。誰もが理解出来るであろう事を肝心の彼だけが分からずにいるのですから。
 お陰で私は青葉シナリオの途中、話の展開が全く理解出来なくなりました。まさか海辺でのシーンを経て尚、青葉が何故親友に徹していたのか昴が理解出来ていないとは思わなかったので。

 滅び行く世界においてその結末が描かれないというのは予想の範疇でした。「こなたよりかなたまで」もそうでしたし、何より下手にラストまで書ききってしまうとかえって物語が陳腐になってしまう事は珍しくないので(はるかぜどりに、とまりぎをを思い出しながら)。
 ただ、ラスト部分急に駆け足になってしまいそこに関してはかなり拍子抜けでした。シェルターに入る五万人のうちの一人に選ばれた昴。その噂が島に広がり島民から距離をおかれるようになってしまった事。その後青葉と結ばれシェルターにはいかず島に残る決意をした事。その所為か幾分島民の反応が和らいだ事。作中で描かれていたのはこれだけです。
 正直私はこのシェルターの一件でもう一山くると思っていたのでいきなり運動会に飛んでそのままエピローグというのはかなり納得のいかない物でした。
 昴がシェルターに入れる事が決まって様々な反応を見せる人達の中で、一番その事を喜んでいたのは彼の母親です。自分の息子があと僅かしか生きられない事を嘆き絶望の淵に沈んでいた彼女にとって、昴に生き残れる可能性が生まれた事は正に一筋の光だったのでしょう。その事を知った彼女はそれまでの落ち込みようが嘘のように浮かれ希望(まさに望でしょう)に満ちた表情を見せるようになりました。


 その、彼女にとっての唯一の希望が青葉によって絶たれたとしたら、彼女はいったいどうなってしまうというのでしょうか?


 青葉は昴が自分の為にシェルターにいくのを辞めたという事を島民に喧伝して回っています。当然それは昴の母親の耳にも届くでしょう。
 その時の彼女が息子の幸せを素直に祝う事が出来るとは到底思えません。もしそうなら最初からあんなに落ち込んだり、シェルターに入れることが決まった時に喜んだりはしないでしょう。
 ではどうするのか? 折角手にした権利を女の為に放棄した息子を罵倒するのか、それとも息子の命を奪う事になる青葉を罵るのか。罵られたとして青葉はなんと答えるのか。
 昴を愛する女性二人の間でいったいどんなやり取りが行われたのか。そこに答えが出ないまま物語にピリオドが打たれてしまった事が残念でなりません。


その二
 朝陽はこの作品のヒロインの中で唯一外見が守備範囲外だったのですが、その所為かうざい事この上ないキャラクターでした。「男の人はみんな、私の胸を見るから」とか言い出すし。自意識過剰の勘違い女にしか見えないんですが。
 シナリオ的には前にクリアした青葉に比べて非常に薄っぺらい印象を受けました。例によって例の如くの健速シナリオで、焦点を主人公ではなくややヒロイン側にシフトさせていた事を除けば今までの作品のすり直しにしか感じられませんでした。盛り上がりにも乏しくこれといって見るべき物は無かったかと。
 正直存在する必要あったのかなと。いや、夕陽の存在と関係性を考えれば存在自体は必要だったのかもしれませんが攻略対象にする必要までは無かったんじゃないかとそんな印象です。
 というかこれなら姉妹丼シナリオでよかったというのが率直な意見。元々私は一夫一妻制とかそれに類する考え方には嫌悪感を持っているので主人公の行動にはストレス溜まりっぱなしでした。相手の親公認で姉妹丼OKなんだから据え膳はきちんといただいてしまえと。何の為の隕石衝突なんだと(ぇ


 この作品、最初は終末の世界を描いた作品だと思っていたのですが全然違ったようです。世界の崩壊は事象として存在するだけで物語には大して関わってきていないし登場人物に与える影響もその事象の大きさに比すれば微々たる物でしかありません。健速氏らしいっちゃらしいのですがちょっと肩透かしを受けた印象です。


その三
 シナリオは良くも悪くも健速氏らしい作品だった気がします。
 前にも何度か書きましたがシナリオがワンパターン。この作品の中だけでなく同氏の作品であるこなたよりかなたまで遥かに仰ぎ、麗しのともほぼ同じ展開というのはさすがに辟易します。
 またラストに関しては物凄く無粋だったように感じられました。確かに非常にいいシーンだとは思うのですがだからといってこれを書いてしまう必要は無かったんじゃないのかと。

 テキストはかなり酷いです。これはとにかくシーンによって落差が大きすぎます。根本的にこの人は日常シーンやコントじみたシーンを書くのが向いていないんでしょう。序盤のテキストのあまりのつまらなさ、退屈さは異常。ライターとしてみれば世界の崩壊発覚の前と後を両方書きたかったんでしょうがこの出来では序盤はまるまるいらなかったんじゃないかと。最初から隕石の衝突が発覚していて登場人物全員が陰鬱としていた方が健速氏の適正にあっていたように思えます。
 序盤以外でもシリアスなシーンはいいんですがキャラクター達が和気藹々としているような箇所は見ていて痛々しいです。健速氏の場合、文章がネクラなんでしょうね。それが明るく振舞おうとするから無理をしているように見えてしまう気がします。
 ただヒロインに関しては非常に魅力的に書けていたと思います。特に青葉と御波。

 演出は無駄に凝っていました。背景に日の光が差していたり、雲が流れたり。でもそのくせお風呂上りでも髪型が変わっていなかったりしますが。雰囲気を出すという意味ではかなり頑張っていたと思います。ただシステムは微妙。コンフィグ機能はもう少し充実させてほしかったです。

 最後に。見も蓋も無いですが、別に隕石がぶつかる必要なかったんじゃないかと、そう感じます。結局健速氏が必要としていたのは世界が終わる事ではなく、終わる世界だったわけで。そういった意味では当初期待していたのとは随分と違う作品でした。
 しかしここまでワンパターンなシナリオを見せられると、これから先、健速氏がどういった作品を作っていくのか逆に興味が沸いて来ました。ワンパターンでこの先も通せばそれはそれで凄い事なのかもしれません。