Fate/stay night

グラフィック
D−
シナリオ
C
文章
C
操作性
C
サウンド
C
H度
B−
総合評価
C

ByTYPE-MOON

 同人ソフト「月姫」で旋風を起こしたTYPE-MOONの商業作第一弾。所有者の願いをかなえてくれる「聖杯」を巡って繰り広げられる聖杯戦争が物語の舞台です。
 爆発的な売り上げを記録した「Fate」に私はゲームの内容よりもその商業センスに目を見張りました。TVCMまで打っての宣伝にマキシシングルの発売。正直内容と売り上げがこれほどアンバランスだと感じた作品は他にありません。その商売人としてのセンスは抜群だと思います。
 内容としてはそれほど前作から進化したようには思えません。相変わらずなグラフィックは前作よりもまともになったように感じますが、ただ単に「慣れてしまった」だけかもしれません。どちらにせよ及第点には程遠い出来です。
 シナリオも一言で言えば「相変わらず」
 主人公は月姫と同じく変な人道主義に固執、神話を多用したシナリオは興味が無い人は結構つらいものがあります。また神話に詳しすぎる人にとっても逆に中途半端な印象を与えかねません。文章は非常に癖が強く、好き嫌いがはっきりと分かれます。
 また、英語に詳しくない人はFateの意味を調べておくといいかもしれません。
 サウンドは今ひとつ。主題歌はそれなりにお気に入りですがそれ以外にあまりピンとくるものはありませんでした。
 とにかく非常に長い作品でむやみやたらにBADENDがある為攻略に骨が折れます。
 グラフィックといい、シナリオといい文章といい、癖が非常に強く、「月姫」が気に入った人には良いかも知れませんがそれ以外の人(特に初心者)がプレイするにはあまりお勧めできません。また、主人公が非常に自分を主張するタイプです。思想的に偏っていて私は殺意すら覚えました。戯言などを読んで私に共感した人は同じように不快な思いをするかもしれません。
逆に私に反感を持った人は共感できると思うのでお勧めです(笑)

 以下ネタばれ

 へタレといえば「君望」の主人公孝之が有名ですが、個人的にはこちらのほうがへタレ具合は上です。戦いに対する思考が戦後日本の政府答弁を見ているようでとにかくストレスがたまりました。
「正義の味方」などという言葉自体にも反吐が出る思いでしたが、それを中途半端にしか実践しない(そのくせ他人に強要する)主人公士郎は、存在自体戦後日本の害悪の権化のように感じられました。平和主義とか、無闇な戦いを避けているといえば聞こえは良いですが、要するに自分かわいさの行動に他なりません。限りなく黒に近い友人をあくまで白と言い張り、挙句に大量の人間を生命の危機にさらす。あれですか? モデルは日本と北朝鮮ですか(笑)
 結局は相手のことを考えての行動というより自分の周りに波風立てたくないという思考が底辺にあるのでしょう。それを正義の一言で片付ける。要するに偽善者です。
 穿った見方をすれば主人公は犠牲者を探し求めているのかもしれません。悪役、そして犠牲者がいなければ「正義の味方」は成り立ちませんから。
 あくまで相手のことを信じ、こちらからは極力動かず攻撃を受けた場合の反撃以外は行動しない。書いていて気づきました。これ第二次大戦前の英仏の行動にそっくりです。ヒトラーがいかに危険か理解していても、保身のあまり、あくまで話し合いにこだわり、結果として次々に行われる譲歩。最終的には世界を巻き込んでの大戦争。
 主人公士郎の行動と考えは為になります。こういった見せ掛けだけの正義の味方、事なかれ主義をもつ人物こそが世界に危険を及ぼすのです。
 一方登場するサーヴァントたちは非常に魅力あふれたものでした。ただし出典がギリシア神話に偏りすぎているのと、佐々木小次郎には違和感を覚えましたが。
 シナリオライターも少し考えてほしいものです。佐々木小次郎といえば現在連載中の「バガボンド」の登場キャラ。井上雄彦の佐々木小次郎を見たことがある人の前にあの小次郎を出されてもギャグにしかなりません。井上先生に比べたら幼稚園児の落書きのような小次郎ですからね。

 長々と書いてきましたが個人的には「イリアENDが無い時点で駄作だ!」と言い切ってしまいたいところです。