群青の空を越えて

グラフィック
D
シナリオ
D+
文章
B−
操作性
C
サウンド
C+
H度
D
総合評価
C

Bylight

 微妙に異なる歴史を歩んできた近未来の架空日本。独立を志向する関東政府とそれを認めない関西との間で日本は内戦状態に入ります。そんな中、主人公は敗戦濃厚な関東にあって戦闘機のパイロットとして戦いに身を置く事となります。
 俗に言う架空戦記物の一種で設定では縄文・弥生時代から現実とは違う歩みを進んだ世界、と言う事になっています。(本編では一切その事には触れられていませんが)
 新しい形の国家を目指し、主人公の父親がぶち上げた「円経済圏理論」。この理論を名分に日本から独立しようとした関東政府。その先兵として学生の身分でありながら戦う主人公達という設定ですが、身も蓋も無く言ってしまえば学生運動の亜種でしかありません。戦争の動機や目的が非常に曖昧で説得力に乏しく、また戦闘に携わるキャラクター達が著しく緊張感に欠ける為、全体的に「戦争ごっこ」という印象の強い作品です。また、戦争の発端となった円経済理論を始め経済関連の記述も作内に複数見受けられますが、興味のない人間にとっては小難しいだけの上に、内容自体も首を傾げざるを得ないような物が散見します。そもそも日本人が同じ日本を撃つ理由が「経済」では弱すぎます。少なくとも兵卒にとっては。
 戦記物として見ると及第点は付けられない作品です。なのでストーリーだけで見るなら、特殊な状況に身を置く学生達の青春物語として捉えたほうが評価は高くなるかもしれません。しかし、その場合今度はグラフィックがネックとなってしまいますが。戦闘機などはまだまともな部類に入ると思いますが、人物画に関しては18禁ゲーム物としては到底万人に受け入れられる物では無いと思います。おかげで全く感情移入出来ませんでした。

 BGMはそれ自体の質はともかく、「戦争」と言う雰囲気を出せていたかと考えると些か疑問が残ります。主題歌は非常に気に入りましたが。
 それと気になったのが主人公の声。あまり緊迫感がないと言うか棒読みに近く、聞いていると不快感が募ります。
 
 Hシーンは数は兎も角グラフィックの関係であまり上質とは言えません。パッケージを見てヒロインが気に入ったと言う人なら話は別でしょうが、これ目的で購入するのは無謀です。

 否定的な事ばかり書いてきましたが、テキスト自体の質は悪くないので、戦記物と経済理論が好きで且ライターの主観を受け入れられるのなら楽しめる作品だと思います。要するに人を選ぶという事ですが。

 以下ネタばれ

 なんと言うか、よくこんな物を商業で出せたなあ、と。まるっきりシナリオライターの趣味と主張丸出しで、一歩間違えば(?)ただのオナニー作品です。
 前述しましたが、縄文・弥生時代からのIFだという事は作品本編では全く触れられていないんですよね。私もこのレビューを書こうとしてOHPを見て初めて知った訳で。
 そういう事はちゃんと作品で説明しろと。おかげで、作品中登場人物達が盛んに「弥生人」「縄文人」という区別の仕方をするのが違和感でしかなかったです。
 歴史認識や経済観念など全編にわたってライターの主張とか考え方が散りばめられている印象です。主人公の父、萩野憲二という誇大妄想狂らを通じて自分の考え方を開陳しているとでもいうか。廃藩置県を植民地解放と捉えていた事には流石に「こいつ馬鹿じゃね?」と思いましたが。

 戦記物とするなら、もう少し(少し程度ではどうにもならない気もしますが)緊迫感が欲しかった事は既に書きました。登場人物達がのん気なんですよね、どうしようもなく。戦場でも戦争でも。味方が一機やられました。でも敵を一機やっつけたから大丈夫です。こんな小学生並のやり取りが誇張でも何でもなく登場する作品を戦記物として捉えて良いならですが。
 尤も、緊迫感が無かった事にはグラフィックの影響も多大にあるような気がしますが。絵が嗜好からかけ離れていた所為でヒロインが死んでも特になんとも思わなかったんですよね。モブキャラが一人いなくなった程度の印象で。
 ラスト、尻切れとんぼの印象がありますが、あそこはああするしかしょうがなかったのでしょう。普通に考えればクーデターは失敗、主人公達は全員死亡です。勿論無理やりハッピーエンドにする事も出来ますが……。
 しかし、井上成美を「いのうえなるみ」はないだろうと思います。製作者はアフレコに立ち会ったり、音声のチェックをしたりしていないのでしょうか?