グラフィック
A
シナリオ
E+
文章
C−
操作性
A
サウンド
C+
H度
B−
総合評価
D
Byういんどみる
学校にも「魔法科」なるものが存在する、魔法が当たり前のように存在する世界。とある理由から魔法使いをドロップアウトした主人公は魔法とは関わり合いの無い生活を送っていましたが、ひょんな理由から魔法使いの少女達がクラスメイトとして転入してきて……。と、いった感じで物語は始まります。
魔法少女もの、と言ってしまって良いのでしょうか? 登場するヒロインはほとんどが魔法使いであり、各々魔法による戦闘シーンも容易されています。
戦闘シーンに関しては多彩なエフェクトが印象的であり、この点同じく魔法を扱い戦闘シーンも描いている「ウィズアニバーサリー」などを凌駕しています。ただし、戦闘シーンはエフェクトに頼っただけでテキスト自体の質が高い訳ではないので、決して戦闘シーン自体の出来は良質とは言えません。
シナリオに関しては及第点には程遠い出来です。どのシナリオを進んでも物語の変化に乏しく、後半はご都合主義な展開が蔓延します。物語を進めているというより、進められているといった印象でしょうか。選択肢を設けるなどして分岐を創れば面白そうな展開が出来そうな雰囲気なのですが、残念ながらそのような労力は行使されていません。テキストに関しても同様で、「萌えさせる」事を主眼に置いたシチュエーションが様々に容易されているのとは裏腹に、キャラクターの内面描写が圧倒的に不足しており、キャラクターに感情移入する事が出来ません。主人公に好意を抱いているという他に確たる人格を持たない(そしてそれを人は人格とは呼ばない)ヒロイン達は極端に人間性が欠如しています。
サウンドに関しては過不足ないと言った程度。不快ではありませんが、特に印象に残る程度でもありません。
Hシーンはメインヒロインに関しては複数用意されており、着衣Hを多く取り入れるなどシチュエーションにもそれなりにはこだわっています。
世間では「萌えゲー」として認知されていますが、その捉え方で間違い無いと思います。キャラクターを見て自分の好みで無いとなかったとしたら間違いなく買わないほうがいいでしょう。シナリオを重視する人も同様です。
尚、このゲームで一番萌えるのはシナリオも無く、女ですらない「渡良瀬準」であるともっぱらの評判です。そんな彼女(?)の活躍が見たい方はこちらではなく「はぴねす! りらっくす」をどうぞ。
以下ネタばれ
シナリオに関しては「CLANNAD」以来久々に不快感を与えてくれた作品でした。原因はヒロインの一人「式守伊吹」の扱い、及び後半のシナリオ展開にあります。
物語は式守の秘宝を奪おうとする伊吹一派とそれを防ごうとする主人公とヒロイン達という軸を中心に進んでいきます。
しかし、ここで問題になってくるのが、主人公達と敵対するのもまた物語のヒロイン達であると言う事です。
初代ガンダム以降のヒーロー物作品によく見られる物語の形式に主人公と敵対する「敵」がイコール「悪」ではない、と言う物があります。
初代ガンダムがそれまでのロボット物、ヒーロー物作品と一線を画したのは一言で言えば「敵がカッコいい」という一点に尽きます。
それまで、ヒーロー物と言えば主人公に敵対する敵役は分かりやすい「悪」であると相場が決まっていました。
目的は世界征服。悪逆非道残忍無道。見た目からしておどろおどろしていて全身で「私は悪者です」と訴えかけていました。そんな方程式を根底から覆したのがガンダムに置ける主人公のライバル「シャア・アズナブル」その人です。
見た目からしてそれまでの敵役とは違います。普段は仮面を被って素顔を隠していますが仮面の中には金髪碧眼の美形が潜んで居ます。もじゃもじゃアフロのアムロ・レイよりよほどカッコいいです。
戦う目的だって世界征服とかそんな単純なものではありません。父親の復讐を果たし、その遺志を継ぐという目的のもとに彼は動いていたのです。たまたまその場に居合わせたから戦う事になった引きこもりメカオタクのアムロとは志が違います。むしろアムロなどよりよほど明確な正義と信念の元、シャアは戦っているのです。
それを踏まえてはぴねす!のシナリオです。敵役はムサいおっさんでも全身タイツを着込んだ変人でもありません。「萌え」を主眼に描かれた可憐なヒロインです。そんなヒロインがショッカーよろしく世界征服の為に戦っていて一方的にボコられて終わりだとしたらユーザーは納得するでしょうか?多くの人は納得しないでしょう。唯でさえ見た目「萌えゲー」なのです。ユーザーが期待するのは「止むに止まれぬ事情があって仕方なく他のヒロイン達と戦う事になっている」とかそういった具合の事でしょう。少なくとも私が伊吹に求めらていたのはシャアのポジション以外の何物でもありませんでした。
そして実際、伊吹には秘宝を奪うための彼女なりの正当な理由がありました。奪う側の彼女にも守る側と同様の「正義」があった訳です。しかしその事は作中主人公に一顧だにされていません。終始彼女は「秘宝を奪おうとする悪役」として描かれています。
作中で主人公は誓います「(伊吹)が『秘宝』に手出しするならば、俺はどうしてもそれを止める側に回らなければならない」
しかしその後、こんな事を言ってるのです。「俺は今回の事件について、何の事情も知らないんだ」
秘宝が伊吹に悪影響を及ぼす可能性がある事を知るのはこの更に後です。そう、主人公は何も知らないのです。何も知らないのに、伊吹の行動を掣肘しようとしているのです。なんと独善的な事でしょう。これは事情も何も知らないのに、最初から伊吹の事を「悪」と思いこんでいる事に他なりません。「根は悪い奴じゃない」「本当は普通の女の子」だなどと伊吹を庇い立てするような発言を繰り返しておきながら、誰よりも伊吹の事を信じていないのは他ならぬ主人公その人なのです。ルートによっては守る側のヒロイン達よりも、奪う側である伊吹らと多くの接点を持つ事になる主人公ですが、この「伊吹側が悪」というスタンスは一貫して変わりません。彼にとって伊吹とはまったく信じるに値しない人間でしかなかったのです。
独善的な主人公と言えば、Fateの衛宮士郎が有名です。しかし彼の場合そういった独善的な思考に至るようになった経緯、それに対する本人の考え方などがある程度克明に描写されていました。共感できる出来ないは別として、プレイヤーには彼の独善的思考の在り方が理解出来たのです。
しかしこの作品の場合、そのようものは一切ありません。まるで太陽が東から昇るように当たり前の事として「伊吹は悪」という事実が横たわっているのです。伊吹の扱いは世界征服を企む悪の組織と大差ありません。
もし仮に。対立するヒロイン達の間で葛藤する主人公というもの描けていたのなら、物語としての完成度は比較にならないほど向上していたと思われます。難しい事ではありません。ただ単純にプレイヤーの分身たる主人公にフラットな視線を持たせればそれで事足りたのですから。それをしなかったのはシナリオライターの手抜きか、そうでなければ最初から真面目にシナリオを作る気が無かったという事なのでしょう。