こなたよりかなたまで

グラフィック
B−
シナリオ
A+
文章
B+
操作性
B
サウンド
B
H度
D
総合評価
S

ByF&C

 不治の病に身を冒された主人公遥彼方。最期の刻を生きようとする彼の元に一人の吸血鬼がやってくるところから物語は始まります。
 特徴として主人公がきちんと「主人公」している点が挙げられます。普通この手のゲームの主人公は無色透明で、ヒロイン側の事件や過去を軸に物語が進む事が多いですが、このゲームの中心はあくまで病魔に身を冒された遥彼方です。感動系の話はとかくヒロインに不幸が降り注ぎがちですが、その辺りも逆転していて新鮮でした。
 また、安易に奇跡に頼らない点も印象的。吸血鬼という設定以外は非常に現実的に物語が紡がれていき、ある意味「君望」などよりもリアルに話が展開していきます。

 欠点は非常にコンパクトな作品だという事。共通パートが非常に長くテキストはボリューム不足。BGMとCGも質はいいですが数が少ないのが気になりました。定価自体安いので仕方ないのかも知れませんが。それとメインヒロイン以外のルートは蛇足というイメージが拭えません。

 一本筋が通った物語といった印象で、感動系の話としては最高クラスの出来だと思います。ヒロインを殺さずに感動を与えるというのは非常に上品な印象を受けました。
 人によっては主人公の生き方に反感を覚えるかも知れませんが自信を持ってお薦めできる一本です。


 以下ネタばれ

 主人公彼方が末期癌という設定には驚きました。しかも冒頭には抗癌剤の副作用に苦しむ苛烈な描写。
 最期の刻を迎えようとしている彼方に永遠の命という救いの手を差し伸べる吸血鬼クリス。その救いの手を、今ある生活を守るために拒絶する(不老不死になったら同じ所には留まれないので)彼方の姿勢にこそ、この物語の本質があると思います。
クリスを拒絶した結果、彼方はクリストゥルーエンド以外全てのシナリオで死を迎える事になります。しかし、

 例え命を失っても自分には守るべきものがある。

 その事を身を持って実践している遥彼方だからこそ、トゥルーエンドに於いて、クリスを受け入れ共に永遠の命を生きる事を決意した事に感動を覚えます。
「命が一番大事!」などという恥ずかしい台詞が横行している現代日本では理解されないかも知れませんが。

 クリストゥルーエンド、数ある結婚エンドの中でも、そこに至る経緯が群を抜いて重厚な為、感動も一入です。彼は逃げたのではありません。受け入れたのです。

 このゲームをプレイすれば、CLANNAD否定派の私の気持ちが少しは理解されるかと思います。